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GREETINGS FROM THE PRINCIPAL INVESTIGATOR

研究代表者あいさつ

ついに 全国の無作為抽出でSOGI設問を含む実態調査が実現しました

私は、性的指向や性自認のあり方(SOGI)の多様な実態に加え、自分のSOGIが他の多くの人と違っている場合、それらは生活にどのような影響を及ぼし、どのような不利益を受けるのか、といったことを明らかにしたいと考え、この研究を進めています。
こうしたことを描き出す研究方法には様々なものがあり、それぞれに利点がありますが、日本では、特に量的研究が立ち後れているため、十分な貢献ができていません。
これだけたくさんのアンケート調査が行われているにも関わらず、SOGIにかんしては、全国の傾向を描く信頼できるデータがまだないのが実情です。

DATA.1
アメリカのLGBT以外の貧困率は15.7%であるのに対し、LGBTでは21.6%(2014-2017年データによる)
LGBT Poverty in the United States - Williams Institute
このページの最後にもいくつかの例を挙げておきます

上に示したような比較は、全数調査や無作為抽出調査という方法で、性的指向や性自認のあり方をたずねることによって、正確な結果を得ることができます。
日本でも、全数調査や無作為抽出調査で人々の生活実態、健康状態、経済状況、家族の状況等をたずねている調査が多数あります。誰とどこでどのような住宅で暮らしているか、どの地域でどのような仕事をしているかなどがわかる日本在住のすべての人を対象にした国勢調査(総務省)、所得、貯蓄、心身の健康や介護状況等がわかる国民生活基礎調査(厚生労働省)、世帯の消費内容や金額がわかる家計調査(総務省)など、例を挙げればきりがありません。
私は、これらの結果を見るたびに、「調査票に性的指向と性自認のあり方をたずねる設問が入っていれば、SOGIによる統計的比較を通して性的マイノリティが置かれた状況を明らかにできるのに」と、残念に思ってきました。

どうにかしてこの状況を打破したいと、8年ほど前から準備を進めてきました

もちろん、国内でも性的マイノリティの実態を明らかにしようとする調査がいろいろ行われており、重要な結果を発表しています。
しかし、性的マイノリティだけを対象にさまざまな方法で配布・配信して回答を募る調査では性的マイノリティ以外の人との厳密な比較ができず、また、インターネット調査会社の登録モニターを対象にした調査では、回答者は限られた登録モニターのさらにごく一部なので、回答者のうち何%が性的マイノリティであるといった結果やSOGIによる比較結果が提示されても、それらを日本全体にそのまま当てはめることはできません。

私たちは、どうにかしてこの状況を打破したいと、8年ほど前から準備を進めてきました。誰もが回答者になりうる調査でいかにSOGIをたずねるのかを慎重に検討して設問を考案した上で、2019年に大阪市において市役所の協力を得て、SOGI設問を含め、多岐にわたる実態をたずねる無作為抽出調査を行うことができました。

今回は、これらの経験を踏まえ、ついに全国、無作為抽出、SOGI設問を含む、という条件がそろった実態調査が実現しました。アンケートの内容は多岐にわたりますが、それは今後に続く調査・研究を視野に入れているからです。
今回の結果は、将来、SOGIと経済、SOGIと家族、SOGIと健康、SOGIの中の性の多様性、SOGIと居住地移動などのテーマに絞った詳しい調査を展開する際の基礎として参照されることを想定しています。

ただし、検討に検討を重ねて設計されたアンケートも、対象者となった皆さまのご協力が得られなければ、まったく意味がありません。アンケートが届いたすべての方に回答していただくことができたら、世界でも類をみない貴重なデータとなります。本研究にぜひご参加いただけますよう、心よりお願い申し上げます。

研究代表者

釜野さおり

SAORI KAMANO

国立社会保障・人口問題研究所
人口動向研究部 第2室長
Ph.D.(社会学)

現在はこの調査の「母体」である、SOGIの人口学を主なテーマとして取り組みつつ、性的マイノリティを取り巻く環境が変化しつつある「今」の記録を残すため、SOGIにかんするデータ収集に力を入れています。同性間と異性間カップル世帯における関係性の調査、性的マイノリティについての意識調査、大学教員や小中学校・高校の教職員の意識調査、大学における施策調査などを進めています。
論文(分担執筆):「性的指向と性自認のあり方の人口学的研究:SOGIと人口学的属性」(『セクシュアリティの人口学』原書房, 2022)、「国勢調査と同性カップル世帯−排除と可視化のはざまで」(『クィア・スタディーズをひらく2』晃洋書房, 2022)など。